ヌアクショットは首都といえど、中心部から車で20分も離れれば、住宅や建物もまばらになる。住み始めて8か月ほどになるが、まだあまり国内を旅していない。これには色々と理由があるが、ぜひ近場でも砂漠トリップを体験したい、ということで、現地ガイドを見つけ、市内から半日でできる砂漠トリップに行ってみた。
午前10時半、ガイドのラハマさん(だったかな)が白いブウブウを身に纏いお茶セットを抱えてやって来た。ついに砂漠でのミント・ティーが体験できるようだ。 こちらのお茶は、日本のほっと一息ティー・タイム、よりももっとモーリタニアの人々の生活に存在感がある。一説によれば、このお茶(テ・ア・ラ・マント Thé à la menthe: 緑茶とミントを煮出した甘いお茶)は、19世紀半ばにモロッコから伝わって来たもので、一部エリートの人々の間でのみ親しまれたが、独立後により一般的に飲まれるようになったとのことだ。(*1)当初は成人男性のみのものだったが、現在では女性や子どもにも行き渡るようになった。その淹れ方は、前述のような経緯もあってか、片手間で入れるのではなく、きちんとお茶入れの儀式に従事しなくてはならない。まだ遭遇したことはないが、車での長時間の移動の際にもお茶の時間になると、道路わきに車を止めてティー・タイムが行われるそうだ。

ミントは新鮮でなくてはならない。市内から国の西南部マリ国境に向かう国道3号線に入るところで、ミントを購入する。皆、国道に入る前にミントを買い求めるのだろう、交差点では青年たちがミントを大きなたらいに抱えて売っている。たいてい1回分のミントが一束になっており、10ウギア(35日本円くらい)/束で買える。これを1束窓越しに買って、一路郊外のワダナガ(Ouad Naga)へ。

旅に備えて車の燃料補給にガソリンスタンドに立ち寄った。正面から、かなり年期の入った、ぼこぼこで塗装もはげたトラックがやってきた。その荷台にはラクダが一頭座り込んでいる。膝を折った状態で四肢を縛られていた。この先にあるラクダ市場から購入されてきたとのこと。この国ではラクダは貴重な財産となる。
市内から30キロほどのところで、警察のチェックポイントを通過。国内小旅行といえどパスポートを忘れてはならない。政府車両及び外交車両以外は全て身分確認される。ガイドさんも一緒なので、事情説明してくれて問題なく通過。こういったチェックポイントが国内に点在している。
そして、先ほどのラクダが荷台に積まれたと思われるラクダ市場を通過。ラクダ、らくだ、駱駝、、、売られる身であることを知ってか知らずかラクダたちはのんびりとたたずんでいる。

さて目的地のワダナガに到着。約1時間半のみちのりだった。ワダナガとは、「水」と「低地」という意味だそうだ(何語だったか不明)。確かに町の両側に丘陵があり土地は乾いているがところどころ沢の跡のような窪地がある。
腹が減っては何とやらで、まずはランチ!そしてランチはもちろんメシュイ。メシュイ・オーブンのある所でメシュイをオーダー。簡易食堂みたいなところで、表にはおじ様方がござに座ってお茶を飲んでおられ、我々は奥の部屋に通してもらう。部屋といってもメシュイ屋さんの住居で、四畳半くらいの一部屋のみのコンクリートでできたスペースだ。家具もほとんど無く、小さくてほこりをかぶったテレビと子供用の服が2-3枚無造作に置いてあるのみ。床にはカーペット。相当古くてほこりっぽいので裸足になるのを躊躇してしまうがやはり人様のおうちなので靴は脱いでお邪魔する。ハエもたくさんやってくる。外の気温も30度はあるだろうがこの部屋の中にいるには湿気がないのが救いだ。家族と思われる小さな子どもやヤギが我々の様子をのぞきに来る。ラハマさんがパンを買ってきてくれた。フランス起源のバゲットは、他のフランス語圏と同じく、モーリタニアの主食の一つ。メシュイを待つこと、40分以上。オーダーしてからお肉を買ってきて焼き始めるので、まあこのくらいの時間はかかる。それにしてもお腹が減ってきたので、パンをかじって待つ。そうするうちに大きな焼けた肉の塊がやってきた。メシュイ・タイム!

日本のなべ料理のなべ奉行よろしく、メシュイにはメシュイを切り取って人々に分けるメシュイ奉行がいるのが通常だ。今回はもちろんラハマさんが奉行となって切り分けてくれる。切ってもらったお肉一切れと一口サイズにちぎったパンを手づかみで一緒に口に入れる。羊肉の脂身とパンの塩分が絡んでなかなかおいしい。。おいしいが、肉とパンだけかあ、、と思いながらゆっくり噛んでいると、周りは皆おいしそうにパクパクと食べてしまった。80年代にモーリタニアを旅した英国人作家ピーター・ハドソンによれば、もっと国内奥地では、1頭のヤギのメシュイで家族が2-3週間は食べ続けられるということなので、この簡素な食事もありがたい食事なのだ。。。と、考えているうちにフィンガーウォッシュのお水と粉石けんKlinがでてきた。(*2)この粉石けんはおそらく衣類用洗濯洗剤なのだが、価格的にこちらの方がお手頃だからなのか、フィンガーウォッシュはKlinでの洗浄が田舎では一般的だそうだ。
メシュイ・オーブン 客間(?)から 食事中!

さて、お勘定を終えて、やっと砂漠へ。とはいっても幹線道路から外れて200メートルも進もうものなら目の前はオレンジ色の砂漠なので、5分ほど進んでお茶づくりによさそうなスポットを見つけて車を停めた。ラハマさんは木陰に陣取ってお茶セットをてきぱきと出し、手で一掴みほどの炭を砂地に直に置き火をつけた。その上に直に銀色のティーポットを置いてお茶を沸かし始めた。お茶の葉とミントを煮出したら、砂糖を入れたもう一つのティーポットに注ぎ込む。ここからが重要で、お茶用のグラスにはある程度の泡を作らなければならない。ポットをグラスに交互にお茶を移しながら泡をつくるのだが、なるべく高いところから注いで泡ができるようにする。泡も浮かんでは消える泡ではなく、しっかりグラスの中に残らなければならない。この泡の層がグラスの半分ほどできたら準備OK。お茶も程よい温度になり、 グラスも温まって、おいしいお茶を注いでできあがり。小さいころに、お茶が熱すぎるときには湯飲みどうしでお茶を交互に移してお茶を冷ますと良いのだ、と教わったことを思い出す。 そうすると湯飲みも温まってよりお茶が美味しく飲めるのだと。ラハマさんが、おいしいお茶を作るために大切なこと3つを教えてくれた。炭火を使うこと、じっくり時間をかけること、それから人々が集うこと、なのだそうだ。ティータイムはモーリタニアの人々の生活の中でとても重要な役割を果たしているのだ。
泡を立てるにはテクニックが
いるできあがりー

先述の英国人作家ハドソン氏は、砂漠を1週間歩いて旅した際に、この一杯の甘苦いミント・ティーが、どれだけの水よりも喉を潤してくれた、と記述している。確かにその味はお茶キャンディーのようで、水分とともにカロリー補給もしてくれ、カフェインも手伝ってか、喉ばかりでなく、暑さと乾燥で(そのせいだけではないかもしれないが)私のぼんやりした頭もシャキーン!とする。この国の気候で暮らすには無くてはならないものであることが分かるような気がする。
お茶の後は砂漠を少し散歩して帰路に着いた。砂漠トリップというよりはお茶トリップという感じだったが、これからしばらく滞在することになるこの国をもっと旅してみたくなる経験となった。
帰途で動物園、と呼ばれる一般開放されている個人の庭を一巡りした。ダチョウやクジャク、リクガメやアヒルなどがたくさんいる。こんな砂漠の真ん中によく造ったものだ。しばし緑の中で熱さを忘れて楽しんだ。
クジャクが迎えてくれた ダチョウも2頭
*1 Facebook “Mauritanie et culture”より
https://web.facebook.com/MAURITANIEN/photos/a.265977093551501/673863076096232/?type=1&theater
*2 “Travels in Mauritania” (1990) by Peter Hudson
https://www.goodreads.com/book/show/6532983-travels-in-mauritania
ミントティーも泡が大事なんですね。茶道も泡で技量がわかるけれど、お茶文化共通なんだろうかと思ったり。チャイは高いところから注ぎますが、泡立ち重視なのかな…?
今後も楽しみにしてます。でも、もうちょっと頻繁にアップしてほしいなぁ、と軽くリクエスト。w
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コメントと頻度向上への励まし、ありがとうございます。ネタはいろいろあるんですけどね、いまいち編集ツールの使い方が分からなくて(言い訳!)。。頑張ります、こうご期待!
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