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バン・ダルガン(Banc d’Arguin)自然国立公園とヌアディブ(Nouadhibou)への旅(1)

イスラム教の年中行事の中でも大きな犠牲祭が年に一度やってくる。モーリタニアの人々は家族とともに過ごし、ささげられた羊の丸焼き(つまりメシュイ)を食べることが慣例となっている。地方の家族に生きた羊を買って帰るのが最高のおみやげだ。それでも一頭が5-6万ウギア(約1,200USD)はするそうで、皆が買えるわけではないようだ。このころになると街頭広告でも「羊があたる」という販売促進が行われるくらいなのだ。

「羊があたる」という街頭広告

公式には月曜と火曜が犠牲祭となったが、週末を含めると4連休になるので、この休みを利用して、モーリタニア国内でも、飛来野鳥で知られる海岸沿い北部のバン・ダルガン国立公園とモーリタニア第二の都市で漁業で栄えるヌアディブへ1泊の予定で出かけることにした。

今回行くようなバン・ダルガン公園のタファリット岬などは、在住外国人が良く休暇で訪れるところであるとはいえ、国道2号線(ヌアディブ・ロード)を外れて砂漠を運転し、文字通り道なき道を進まなければたどりつかないためガイドの傭上は必須。在住年数の長い人々に聞き、バン・ダルガン保護協会のシディさんにガイドをお願いすることにした。過去に日本大使のガイドをしたこともあるベテランのガイドだ。

当日は午前7時に出発。タファリット岬にはテントがあり水やパンも手に入るが、基本的には全て自前でやることを前提としてほしい、ということだったので、完全に野外キャンプ装備で臨む。シディさんはリュック一つとお茶セットを持ってきた。モーリタニアではお茶セットを持たずして遠出してならないのだ。

国道2号線をひたすら北に向けて走り続けることおよそ3時間。道のレストラン、ガルドゥノー(Gare de Nord)でトイレ休憩。トイレといってもきれいに管理されているわけではないので、トイレ室内に入るのにも覚悟がいる。これだったら砂漠で用を足した方がまだましというくらいに、化石化しつつある排泄物などが転がっていて、心が休まらない。ミント・ティーで何とか気を取り直し、旅を続ける。しばらくするとシャミ(Chami)という町に着く。ヌアクショットからヌアディブのちょうど中間に位置していて、給油やちょっとした買い物ができる。

さらに15分ほど進んだころ、シディさんが「左に曲がって」と言う。左に広がるのは砂漠。どこから入るのか?どこでもいいから左、というのだ。ここから入ると10キロくらい走路が短縮できる、というのでとにかく舗装道路の路肩も超えて、左手の砂漠に突っ込んでいく。砂漠の運転にはかなり経験が必要で、いくら四輪駆動でもスピードやギアが適度でないとすぐに止まってしまう。シディさんは自分で砂漠も運転するのに慣れていて、「ここはセカンド、ここからはサード」と指示してくれる。それでもタイヤが砂につかまる。途中からシディさんに運転をお願いしてオフロード・ドライブを楽しむことにした。それでも時々砂丘を登坂するときは目をつぶって「止まりませんように」と祈ってしまうのだった。

そして1時間強の砂漠ドライブを経て辿り着いたタファリット岬は、巨大な丸い岩を先端とし、北側に穏やかなビーチが続く。ビーチに沿って岩を見上げるようにモロッコ式テントとモーリタニア式テントのハイマがいくつか設置されている。我々は一番岩から離れた小さめのハイマを割り当てられた。荷物を降ろして、シディさんは、さっそくお茶淹れを始めた。旅先に到着してまずはお茶でも、というのは日本でも同じ感覚だ。甘いミント・ティーを飲んでいると、テントの外から声がして、シディさんの知り合いの男性がテントに入ってきた。二人はひとしきり握手してハグして挨拶して、男性は座って我々のお茶に加わった。そうだ、おいしくお茶を淹れる秘訣の一つは「人々が集うこと」なのだ。おいしくお茶を飲んでしばらく談笑ののち、我々は海水浴を楽しんだ。それから再び車に乗って、翌日のボートを予約しに隣村のイウィク(Iwik)まで行った。

イウィクまでの道のりの途中、砂漠のバラ(https://ja.wikipedia.org/wiki/砂漠のバラ)と呼ばれる、砂の中の鉱物が結晶化してできる石を見せてくれた。いわれなければ全く気付かずに通り過ぎてしまう、砂に隠れるように咲いている花の形をした石だ。許可を得て記念に小さなものを拾ってきた。

「砂漠のバラ」と呼ばれる結晶石

隣村といっても砂漠をひた走ること30分強、ガイドのシディさんの指示だけが頼りだ。車の轍に沿うこともあれば、外れて進むこともある。「昔はここがヌアクショットに通じる道だったんだ」と途中で説明してくれたが、道ってこの車の轍があるところのことかいな?しばらく進と、砂漠の向こうになにやら標識っぽいものがぽつんと立っている。4方向を指しているが何が書いてあったかは全く見えない。きっとヌアクショットと書いてあったのだろう。西部劇の映画で、荒野の中にぽつねんと立っている道しるべを見た記憶がある。雨風しか通らなさそうで、実は確かに人が通る場所なのだ。

イウィクは小さな漁村で、我々が車から降りると、子どもたちが寄ってじっと我々を見ている。明日の船を予約した後、借りた釣り竿をもって、村のはずれに釣りに出かけた。シディさんがえさ用のイワシを釣り針につけてくれた。小1時間ほどやっているうちに釣れたのは、なまずが5匹ほど(ほとんど海に戻した)とますに似た魚が一匹。この一匹はシディさんがさばいてくれてこの日の夕食になった。以前タイでタイ語の勉強をしていた時に、「一日中釣りをしていておじいさんに怒られた」という例文を読んで、のんびりした田舎で過ごす子供を思い出しておかしくなったと同時に、今の自分にこんな時間の過ごし方ができるだろうか、と思った。イウィクでは、きっとほとんどの子どもたちがそんな時間を過ごしているのだろう。

夕食は、釣った魚と持参した鳥の串焼きをバーベキュー。ゆっくり夜が更けていった。もちろん食事の前後はお茶が入れられたのだった。

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