週末に、モーリタニア政府が主催する、国際女性デーの行事に招待された。場所は、ヌアムガル(Nouamghar)という首都ヌアクショットから車で3時間ほど離れた小さな漁村。バン・ダルガン国立公園の入り口でもあり、公共機関の出張所なども多いため、中央政府からの出張者も受け入れるためにVIP用の宿泊施設も数年前に建設された。今回、政府関係者はそのVIP施設に泊まるらしいが、我々は、慣れた釣り客用のテントに宿泊した。
午後7時に公式行事が始まるということで、モーリタニア衣装に着替えて7時前に現地到着した。が、行事用の大型テントは薄暗がりの中。隣の宿泊施設から引っ張ってくるはずの電気がうまくいかず、発電機をもってきて何とかするらしい。まあ何とかなるだろうと、我々は駐車場のあたりでうろうろぶらぶらして時間をつぶす。携帯の電波受信も微妙なので、携帯で暇つぶしもできない。そのうち、男性のブウブウや女性のメラファが薄暮の中にフワフワとどこからともなく集まってくる。暗くなる大地を背景に、ふわふわした物体があっちに集まり、こっちに集まりしているのが風情でもある。しかしおなかも空いてくる。行事後の夕食に招待されているので、持参したお菓子で小腹を満たし開催を待つ。
午後9時近くになって、やっと発電機がうなりを上げた。さらに大臣の到着を待って、行事は始まった。こういう場合の言語は、アラビア語のモーリタニア・バージョンであるハッサニア語で行われる。私はモーリタニアに2年半いるが、フランス語の上達もやっとでハッサニア語はまだまだ追い付かないため、社会・子ども・女性大臣、青年・スポーツ大臣をはじめとするVIPのスピーチ中は、テント内のわきに追いやられている(?)女性たちの中に入って、フランス語で説明してくれそうな地元の女性を探したが、どうにもみつからず、ただ座っているしかなかった。(じゅうたんの上にあぐら座り、というのが一般的な座り方)公式の場では男女は別々で、スピーチ台は男性が正面だ。国際女性デーのイベントでも関係ないらしい。そんなことを観察していると、地元の村の女子によるファッションショー(キャットウォークだけ)が始まった。友達同士恥ずかしそうにしていてなんだかかわいいが、インフォーマルな感じは否めない。日本の学校みたいに、「人前ではピシッとしなさい!」なんて言われないんだろう。
そして、行事のハイライト、音楽が始まった。モーリタニアの伝統的な音楽は、調べたところによると、アラブ風、アフリカ風、混合風、というあるらしい。この国の人種や地理と同じく、やはり音楽もアラブ世界とアフリカ世界が交差しているようだ。また音楽を演奏する人たちは、必ずハラティン(モーリタニアでは一般に黒モールと呼ばれる)の人々だそうだ。この辺りも私はきちんと勉強しているわけではないのでいろいろと書けないが、とにかくこういった伝統的なことは部族ごとに役割が決まっている、ということが多いようだ。
モーリタニアでティディニッ(Tidinit)と呼ばれるボディがひょうたん型の細身のギターがアラブ音階を奏で、太鼓(いわゆるジャンベ)がアフリカっぽいリズムを刻み、黒い衣装に身を包んだハラティンの女性が日本の民謡を思わせる声音とメロディーで歌い始める。そのうち、木製のショットガン模型(モーリタニア・カラーの緑と黄色でペイントされている)みたいなものを持った男性二人が出てきて踊り始めた。テンポが次第に速くなると、二人はやおらコンバットみたいにリズミカルな格闘シーンを繰り広げては突然床に伏せては跳ね上がったり、なかなかアクロバティックな踊りを披露してくれた。ハッサニア戦士たちの勇敢な戦いのシーンらしい(個人的には、東南アジアで見たラーマーヤナの戦いシーンを彷彿とした)。エレキギターも入って手拍子とともにさらに白熱してくる。次に歌声が男性のだみ声に変わると、さっきまで歌っていた女性二人が盆踊りを思わせる手の動きで戦士たちの踊りの輪に入ってきた。この入れ替わりが何度か繰り返され、気合の入ったアクロバットが出てくると、観客からも掛け声がかかって会場の一体感が出てくる。後で調べてみると、こういった演奏は喜・怒・哀・楽といった情緒で構成されているらしい。ぜひ次回はもっといろいろ解説してくれる人と鑑賞してみたい。
そして夕食は音楽終了後の11時近くだった。VIPの食事は本来は男性だけのところを、招待客の家族ということで特別にVIPルームに入れてくれた。社会・子ども・女性大臣は女性だが、他にモーリタニ人の女性はいない。地元の女性たちは別室で食事をとるらしい。食事はまずナツメヤシを食べる。クリームを皆さんディップして食べるが、私はそのまま。クリームなんてつけなくても十分甘いのだ。そのうちメインの食べ物が運ばれてきた。もちろんメシュイ。15人ほどのテーブルにサラダやオードブル、そして羊丸ごとのメシュイが4頭はいたのではないか。羊のおなかにクスクスが詰められていて、羊の体に何本も突き立てられた切り取り用ナイフで、近くに座った人がメシュイ奉行となって周りの人に適宜切り分けてくれる。とてもおいしいメシュイだが、ボリュームがすごいので一皿で相当おなか一杯になる。お皿が開いていると、周りの人が無言でお肉を追加してくれるので、必ず何かお皿に残して食べ終わることにしている。テントに着いた頃は、もう日付を過ぎていた。主人を含め数名はそこから夜釣りに行ったが、私はあの不思議な音階を思い出しながら眠りについた。