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ニンジャの行方

ここアフリカ大陸のサヘル地域一帯に生息する陸ガメがいる。大陸は西側のモーリタニアから東側のエチオピアあたりまで生息分布しているそうだ。IUCN(国際自然保護連合)によれば、絶滅危惧種に指定されている。

我々が三年前にモーリタニアにやってきて、この家に住み始めた時、我々よりも長くそこで暮らしてきた同居人(?)がいた。アフリカリクガメの、ケヅメリクガメだった。息子が即座に「ニンジャ!」と名付けて、ニンジャは我々の家族となった。家の裏手に住処があって、明るくなると地上に頭を出してきて、庭を散歩しては草をはみ、こぶし大の黒い落とし物をしながら歩くのだった。気温と湿気が高い時期が好みのようで、夏はとにかく家の周りをぐるぐる歩き回っていたものだった。水は嫌うと聞いていたが、時にプールで気持ちよさそうに泳いでいる姿も目撃した(そのあと救出しないといけないのであった)。

先月一か月近くの夏季休暇から帰ってきたとき、プールサイドに黒い落とし物があり、「ニンジャも元気そうだねー」と家族と話していた。

ところが、まったくニンジャの姿を見ない日が2週間近く続いた。以前も一ケ月ほど穴にこもっていたことがあり(メスだったのでおそらく産卵していたと思われる)、そのうち出てくるだろうと思っていたが一向に姿を見ない。この暑い時期の散歩は大好きなはずだ。庭中捜しまわったが、気配はない。獣医に相談してみたが、「誰かが穴に潜って姿を確認しないと何とも言えない」とのこと。そりゃそうだ。穴の深さは50センチほどだが、幅も1メートルに満たずのぞき込むと相当奥まで伸びている。小柄な体格の人間でないと肩も入らない大きさだ。小柄っぽい庭師にお願いしたが、のぞいたところ、穴はまっすぐ伸びて突き当りから右に折れているので、おそらくそこにいるのだろう、1-2か月出てこないなんてよくあることだ、ということで最終確認には至らない。そこで息子が立候補して肩まで入ってみたが、ニンジャは見えなかった、とのこと。最終的に私がモップの取っ手の先にスマホを取り付け、ビデオを回しながら上半身入ってみた。なるほど、右に曲がって掘られている。ビデオを右側に向けて撮影。かくしてビデオを再生してみると、実は右に曲がった先は非常に浅く、行き止まりの壁が写っているだけだった。家の敷地内含めてニンジャの住処はもぬけの殻だということがやっとわかった。

過去に、門が開いている隙にニンジャが外出しかけたこともあった。唯一考えられるのは、同様に門番が手と目を離したすきに開いた門の隙間を抜け出て、道行く何者かにさらわれた、という経緯だ。ケヅメリクガメは、家畜やそのほかの動物を取引しているマーケットに行くと、高く売れるらしい。特にニンジャほどのサイズになると(全長6-70センチ、高さ3-40センチほど)さらに値が上がるとのこと。

門番(3人交代)に話をして、周辺に事情聴取・目撃情報を収集してもらうよう依頼した。そして2週間後、我が家から200メートルほど先の路上で大きなリクガメを発見して引き取った、という人物が現れた。

その人物は発見現場にすぐ近くに住んでいて、1か月ほど前に自宅付近をさまよっている大きなリクガメを見つけ、保護し、しばらく自宅の中で飼っていたということ。今は60キロほど離れた知人宅に預けてあるので、すぐ持ってこさせる、といって誰かに連絡していた。そして1時間後、埃被った車の後部スペースに、大きなリクガメを乗せてやってきた。

同じ種類でサイズも似通っていて、ぱっと目には同じ亀に見えるが、なんとなくこれはニンジャとは違う、と感じたが、確証がない。甲羅の後部右側に穴があけられている。「動き回るから鎖にかぎつけて飼っていた」とのこと。ひどいことするものだ。さらにひっくり返しておなか部分を確認すると、おなかのへこみ具合がオスっぽい。オスのおなかは、交尾しやすいようにへこんでいるのだ。2年ほど前に取ったニンジャの写真とも詳細に見比べた。微妙な甲羅の曲線や爪の生え方など、やはりニンジャではない。間違いなくニンジャではない。

ところが、よく見れば見るほどこのカメの生育環境はラフだったことが想像できた。甲羅の一部が欠けていたり、爪の一部がなかったり、甲羅全体もこすれた後がたくさんあり、また送り返したら鎖につながれた生活に戻るのだと思うと、忍びなくなってきた。ニンジャではないけれども、連れてこられたのも何かの縁、ここにおいて少し自由に歩き回ったり、好きな時に芝生を食べたり、空いてるニンジャのベッドで寝てもらってもいいではないか。実際のところ、路上での発見に至る経緯はほぼ作り話で、外国人がリクガメを探していると聞いて商売目当てでどこからか連れて(買って?)来たのだろう。しかも5000ウギア(日本円で1万円以上!)を要求してきた。我々が探していたカメではないが、輸送費は払うのでぜひうちで世話をしたいという旨説明して、言い値の半額支払って引き取ってもらった。

息子がこの新しい家族メンバーに、「ココ(多分映画のCocoから来たと思われる)」と名付けた。ココ、ようこそ我が家へ!

突然みしらぬ場所に連れて来られ、草むらに逃げ込むココ

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